地震災害について

地震による構造物の被害

近年、国内外において数多くの巨大地震が発生している。
国外においては1999年トルコ・Kocaeli地震、Düzce地震、台湾・集集地震、2003年イラン・Bam地震、2004年アチェー(スマトラ沖)地震、2005年ニアス島沖地震、パキスタン地震、2007年南スマトラ地震、2008年中国・四川省地震、2009年イタリア・ラクイラ地震、2009年スマトラ沖地震、2010年ハイチ地震、チリ地震、国内においても1995年兵庫県南部地震、2000年鳥取県西部地震2001年芸予地震、2003年宮城県北部地震、2004年新潟県中越地震、2005年福岡県西方沖地震、2007年能登半島地震、新潟県中越地震、2008年岩手・宮城内陸地震、2009年駿河湾地震、2011年東日本大震災、2016年熊本地震、2018年北海道胆振地震など多くの地震が発生している。
ここで1995年以降に国内外で発生した地震で報告されている地盤の永久変位および地震動に伴う構造物の被害を紹介する(太田,2010)。

橋梁

多くの地震において橋梁の被害が報告されている。
1999年台湾・集集地震では非常に大きな断層変位に伴う落橋の被害が報告されている。
【図-19】は断層変位に伴う埤豊橋の被害状況を示す。埤豊橋は大甲渓に架かる多径間のPCT桁橋である。左岸から1番目の橋脚と2番目の橋脚の間に地震断層が走り、1番目の橋脚が4m程度上昇し、左岸1番目から3番目までの桁が落下し、左岸から2番目の橋脚は倒壊した。この埤豊橋を落橋させた地震断層によって橋の直上で滝(高さ3~4m)が出現した。

国内においては1995年兵庫県南部地震 *1)で阪神高速3号線高架橋が横倒しとなった。
2008年岩手・宮城内陸地震においては背後および基礎岩盤の崩壊に伴い祭畤大橋【図-20a】や旧昇仙橋などが落下した。祭畤大橋はアバットを支える岩盤のトップリングに伴い橋脚が破壊したものと考えられる。【図-20b】【図-21】落橋以外の橋梁の被害としては、地震動に伴う橋脚のせん断または曲げ破壊および支承の変形などが報告されている。

【図-19】断層変位に伴う埤豊橋の被害状況(台湾 1999年集集地震)【図-19】断層変位に伴う埤豊橋の被害状況(台湾 1999年集集地震)

【図-20】祭畤大橋(岩手・宮城内陸地震, 2008)【図-20】祭畤大橋(岩手・宮城内陸地震, 2008)

【図-21】祭畤大橋の被害状況(岩手・宮城内陸地震, 2008)【図-21】祭畤大橋の被害状況(岩手・宮城内陸地震, 2008)

道路および鉄道(盛土)

多くの地震において道路および鉄道の被害が数多く報告されている。
道路および鉄道は地盤上および盛土上に建設されているため地盤の永久変位に伴う被害を受けやすい。地盤上に直接建設された構造物は被害を受けやすいが、復旧作業が迅速に行える利点もある。道路や鉄道が受ける地盤の永久変位の被害の種類は断層変位、液状化による側方流動等による変形、または、周辺の斜面崩壊に伴う被害などが報告されている。

1999年トルコ コジャエリ地震、台湾 集集地震では非常に大きな断層変位に伴う道路および鉄道の被害が報告されている。【図-22】に断層変位に伴う道路の被害を示す。鉄道の変位から右横ずれ断層が確認できる。【図-23】に断層変位に伴う鉄道の被害をそれぞれ示す。【図-24】に2007年 新潟県中越沖地震で報告された道路の変形の様子を示す。埋戻し地盤は地震動に弱く変形しやすい。道路に見られる規則的な変形は表面波によるものだと考えられる。

【図-25】に2004年 新潟県中越地震で報告された関越自動車道の盛土崩壊の様子を示す。また、2009年 駿河湾地震においても東名高速道路の高盛土の崩壊が報告されている。【図-26】に2004年 新潟県中越沖地震で報告された斜面崩壊に伴う鉄道の被害を示す。信越線青海川駅の周辺の斜面が幅約50m、高さ約40mにわたって崩壊し、土塊が崖下の線路を直撃した。新潟県中越地震、新潟県中越沖地震、岩手宮城内陸地震などでは山間部においても斜面崩壊に伴う道路等の被害が報告されている。

【図-22】道路の被害(Kocaeli 地震,1999)【図-22】道路の被害(Kocaeli 地震,1999)

【図-23】鉄道の被害(Kocaeli 地震,1999)【図-23】鉄道の被害(Kocaeli 地震,1999)

【図-24】道路被害(中越地震,2004)【図-24】道路被害(中越地震,2004)

【図-25】盛土被害(中越地震,2004)【図-25】盛土被害(中越地震,2004)

【図-26】斜面崩壊による鉄度被害(中越地震,2004)【図-26】斜面崩壊による鉄度被害(中越地震,2004)

地上および重要構造物

地上構造物の被害は地盤の永久変位に伴う被害と、地震動に伴う被害がある。
【図-27】に1999年台湾・集集地震で報告された断層変位に伴う土木構造物の被害を示す。断層変位に伴う重要構造物の被害としては石岡(Shih-Kang)ダムがあげられる【図-27】(a)。大甲渓に堤高25m、堤長375mの重力式コンクリートダムとして建設された石岡ダムにおいて18門の洪水吐のうち右岸側3門が大破し、約10mの大きな段差が生じた *4)。また、【図-27】(b)のように鉄筋コンクリートの構造物が逆断層により変形している様子を見て取ることができる。

【図-28】に送電鉄塔の断層変位に伴う被害の状況を示す。2007年 新潟県中越沖地震においては柏崎刈羽原子力発電所を直撃し、原発震災が現実のものとなった。柏崎刈羽原子力発電所の主要施設の大きな被害は報告されていないが、主排気ダクトのずれ、ろ過タンクの座屈、変圧器火災、荒浜側避雷針鉄塔の斜材が5本破断するなどの耐震レベルの低い設備への被害が報告されている。
また、2009年 駿河湾地震においては浜岡原子力発電所5号機で1~4号機で計測された加速度応答をはるかに上回る426galが計測された。

【図-27】逆断層運動による構造物の被害(1999年台湾・集集地震)【図-27】逆断層運動による構造物の被害(1999年台湾・集集地震)

【図-28】断層運動による鉄塔の被害【図-28】断層運動による鉄塔の被害

トンネル、地下構造物および鍾乳洞被害

トンネルや地下鉄などの地下構造物は一般的に耐震に優れた構造物であるとされている。しかしながら、1995年 兵庫県南部地震、2005年 パキスタン・カシミール地震、2008年 中国・四川省地震および2009年イタリアL’Aquila地震においては地下構造物の被害が報告されている。
国内においては1978年 伊豆大島近海地震が発生し、稲取断層が運動し稲取トンネルが変形した。近年、2016年熊本地震による道路および鉄道トンネルの被害が発生した【図-29】。

【図-29】2016年熊本地震によるトンネルの被害【図-29】2016年熊本地震によるトンネルの被害

【図-30】にカシミール地震および四川省地震における地震動によるトンネルの被害を示す。【図-31】に2003年 宮城県北部地震における亜炭廃坑の被害の様子を示す。地震動により廃坑上部の地盤が廃坑内に陥没した。
【図-32】に兵庫県南部地震における大開駅の被害状況を示す。これは、地下構造物の地震被害としては世界ではじめての例であった。Aydanはこの破壊形態を地盤のせん断によるものであると述べている。【図-32】に示す大開駅の地表面の写真を見るとアスファルトが右横ずれの様相を示している。

【図-30】2005年Kashmir地震と2008年四川省地震によるトンネル坑口の被害【図-30】2005年Kashmir地震と2008年四川省地震によるトンネル坑口の被害

【図-31】2003年宮城北部地震による矢本町亜炭廃坑地域における被害【図-31】2003年宮城北部地震による矢本町亜炭廃坑地域における被害

【図-32】兵庫県南部地震における大開駅の被害状況【図-32】兵庫県南部地震における大開駅の被害状況

2009年イタリアL’Aquila地震においてL’Aquila市内に存在が知られなかった鍾乳洞が2か所で陥没した。【図-33】は陥没状況を示す。このことは基盤が石灰岩である地域において鍾乳洞のような空洞が陥没する恐れがあることを示す。

【図-33】2009年イタリアL'Aquila地震によるL'Aquila市内に発生した鍾乳洞の陥没【図-33】2009年イタリアL’Aquila地震によるL’Aquila市内に発生した鍾乳洞の陥没

地中埋設物

埋設物の代表的な被害は液状化に伴う浮上と断層変位に伴う埋設物の変形である。【図-34】に2004年 新潟県中越地震における液状化によるマンホールの周辺地盤の沈下とマンホールの浮上りの様子を示す。【図-35】に1999年 トルコ・コジャエリ地震における断層変位による埋設されたパイプの変形の状況を示す。

【図-34】液状化によるマンホールの周辺地盤の沈下とマンホールの浮上りの様子【図-34】液状化によるマンホールの周辺地盤の沈下とマンホールの浮上りの様子

【図-35】断層変位による埋設されたパイプの変形の状況(1999 Kocaeli 地震)【図-35】断層変位による埋設されたパイプの変形の状況(1999 Kocaeli 地震)

斜面崩壊

斜面崩壊は、近年の大地震において数多く報告されている。
斜面崩壊による被害は斜面自体の被害のみならず、崩壊した土砂による河川の堰き止め、道路および鉄道等の二次的な被害も報告されている。【図-36】に2009年 四川省地震における斜面崩壊の様子を示す。1999年台湾・集集地震で台湾中部の山岳地帯では大規模崩壊をはじめとし、多数の斜面崩壊が発生した。
【図-37】に2008年 岩手・宮城内陸地震における斜面崩壊の様子を示す。岩手県、宮城県および秋田県の一部で多数の斜面崩壊が発生した。荒砥沢ダム上流や磐井川上流ほかに斜面崩壊が発生した。国内においては2004年 新潟県中越地震、2007年 新潟県中越沖地震等においても大規模な斜面崩壊が発生している。

一方、2005年 パキスタン・カシミール地震で報告された斜面崩壊は断層に沿った斜面に発生しており、断層変位に伴う斜面崩壊であると考えられる。2018年に北海道胆振地震で広域にわたって、火山堆積物で構成されている山岳地帯で斜面崩壊が発生した。【図-38】は吉野地域における斜面崩壊を示す。

【図-36】2009年四川省地震による斜面崩壊【図-36】2009年四川省地震による斜面崩壊

【図-37】2009宮城北部地震による斜面崩壊【図-37】2009宮城北部地震による斜面崩壊

【図-38】2018年北海道胆振地震による吉野地域の斜面崩壊【図-38】2018年北海道胆振地震による吉野地域の斜面崩壊

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