地盤災害について

琉球諸島における地盤災害

一般的に地盤災害は地すべり・斜面崩壊、崖の崩壊、シンクホール、陥没、盛土崩壊、擁壁崩壊、液状化などである。
ここで、琉球諸島の主な地盤災害について紹介する。

斜面崩壊・地すべり

琉球諸島のほとんどの斜面・地すべりは、島尻層に関係している。自然斜面の斜面・地すべりは、主に、大雨によって引き起こされるものである(Tokashiki and Aydan, 2010a)。近年では、上原(もしくは安里)にて激しい大雨の後に地滑りが発生した【図-1】。Tokashiki and Aydan(2010a)は、この地滑りを解析し、大雨の影響で発生したものであることを明らかにした【図-2】。
重力とは別に、大雨による間隙水圧の増加が北上原の地すべりの主な崩壊要因であったと判断された。さらに、追加の原因として、含水比の変化に伴った島尻泥岩の強度低下も原因であると考えられる。地滑りの破壊面は、層理面と断層面で成されていた。

Tokashiki and Aydan(2010a)は、斜面の崩壊挙動について、解析法を提案し、地すべり全体に対する破壊過程の評価を行った。
沖縄県ではこのような崩壊について円形滑りに基づく解析を行うことが多いが、岩盤の内部構造を考慮せずに行われる円形滑り解析は不適であることもこの事例を通して明らかになった。

【図-1】北上原の地すべりの様子(Tokashiki and Aydan, 2010aより)【図-1】北上原の地すべりの様子(Tokashiki and Aydan, 2010aより)

【図-2】降水量の時系列変化【図-2】降水量の時系列変化

【図-3】斜面の崩壊した部分の時間的な変形状態【図-3】斜面の崩壊した部分の時間的な変形状態

【図-4】北上原斜面の破壊部分中心の変位挙動【図-4】北上原斜面の破壊部分中心の変位挙動

島尻層は一般的に琉球石灰岩層下に存在し、琉球石灰岩層の岩盤斜面は、たいてい安定状態である。しかし、島尻層で構成された斜面下部が侵食された場合、オーバーハング状態となり、落石などが、発生することがある。同様の破壊は、琉球石灰岩海食崖にも起こっている。
侵食崖における安定性の問題については、曲げ破壊、せん断破壊、トップリング破壊などの岩盤特有の不連続面に依存している破壊形態が挙げられる(Aydan 1989)。琉球諸島における琉球石灰岩で構成された片持ち梁状のような形をしている崖は、溶解や、波による石灰岩の侵食、風、河川氾濫、雨水の浸透が崖の安定性の問題点として考えられ、特に、都市部では、海岸沿いや河川沿いに顕著にみられる(【図-5】Tokashiki and Aydan,2010b)。

【図-5】琉球諸島の代表的な島に見られる崖の崩壊(Tokashiki and Aydan, 2010bより)【図-5】琉球諸島の代表的な島に見られる崖の崩壊(Tokashiki and Aydan, 2010bより)

【図-6】には、2008年6月27日の雨降後に南城市の331号線で発生した崖の崩壊を示す。この崩壊によって、その付近の道路が9か月間通行止めとなった。この崩壊のメカニズムを片持ち梁の曲げ理論に基づいて解析を行い、実現象と比較した(渡嘉敷&藍, 檀2011)。
【図-7】は、Tokashiki and Aydan(2010b)が、琉球諸島の主な島の海岸における浸食崖の事例を収集し、曲げ理論に基づいて解析を行ったものである。得られた結果より、岩盤の引張強度は0.25-1.0MPaの間に存在することを結論づけた。琉球石灰岩の供試体の引張強度は2-4MPaであることから、不連続面や劣化によって岩盤の強度は母岩の引張強度の0.06-0.25倍であることが明らかになった。

【図-6】南城市の331号線における崖の崩壊【図-6】南城市の331号線における崖の崩壊

【図-7】琉球諸島の主の島の海岸における浸食崖の分析結果【図-7】琉球諸島の主の島の海岸における浸食崖の分析結果

シンクホール

琉球諸島における自然の洞窟は、深くないことから、洞窟が圧縮応力で崩壊するのはまれであり、大半は、曲げ破壊に関係していると思われる。洞窟の安定性評価は、経験則、理論的な解析手法と数値解析手法が利用される。
ここで琉球石灰岩のカルストの自然洞窟(鍾乳洞)を評価の対象にする【図-8】。琉球石灰岩の自然空洞について、6つの異なる安定性のカテゴリーを定義し、安定性の条件をイラストとして示す【図-9】。Aydan(2018)が琉球諸島における事例を収集し、そのデータを各安定性カテゴリーに分離して得られた結果を【図-10】に示す。図中に経験則として各安定性の境界条件を求めた。また【表-1】は、経験式の係数の値を示したものである。

鍾乳洞は、都市部での海岸沿いや河川沿いで問題が発生する。鍾乳洞上に存在する古城の安定性をAydan & Tokashiki(2011)が調査し、その安定性を静的および動的実験と数値解析で検討した。さらに、鍾乳洞の模型を作成し、振動台を用いて実験も行っている。
石垣空港の滑走路の下に鍾乳洞が存在している。環境上の考慮からそれらの鍾乳洞の安定性を確保する必要があり、沖縄県は、鍾乳洞に沿ってアーチ構造の対策工を建設した。最も大事なことは、下部岩盤の状況や自然空洞に対するアーチ構造の対策工の設計であった。Aydan & Tokashiki(2011)は、影響を及ぼすおそれのある鍾乳洞の安定性を静的及び動的条件下で、室内実験を実施しアーチ構造の幅を実験的に求めた。
今後、普天間のアメリカ軍基地が返還された場合【図-11】、石垣島の空洞と同じ問題が想定され、空洞の充填が必要であることが予測される。

【図-8】琉球諸島の各島におけるシンクホール例【図-8】琉球諸島の各島におけるシンクホール例

【図-9】琉球石灰岩の空洞の安定性についての分類【図-9】琉球石灰岩の空洞の安定性についての分類

【図-10】自然洞窟の各安定性カテゴリー境界線と実測値との比較【図-10】自然洞窟の各安定性カテゴリー境界線と実測値との比較

【表-1】経験式の係数の値【表-1】経験式の係数の値

【図-11】普天間基地直下の鍾乳洞(宜野湾市の提供)【図-11】普天間基地直下の鍾乳洞(宜野湾市の提供)

擁壁崩壊

擁壁の崩壊は主に上載荷重の変化、大雨による間隙水圧と浸透流、振動(地震、爆弾、発破など)によって発生することが多い【図-12】。沖縄県には石積の城壁が数多く存在する。
例えば、2010年の沖縄本島近海で発生した地震で勝連城址の一部が崩れた。また、2018年7月3日に台風7号による大雨で今帰仁城址の一部が崩れた。渡嘉敷&藍檀は勝連城址の城壁の崩壊の要因について詳細の検討を行った。崩壊した城壁の高さが6m、傾斜は70°で、使用されている琉球石灰岩ブロックの大きさは50~60cmであった。
知念市で記録された加速度記録を適用して解析したところ、城壁の傾斜が70°であるため転倒モードでは崩壊しないが、城壁の下部と基盤岩の間の傾斜が5°である場合は、すべりモードで崩壊することが明らかになった【図-13】。

【図-12】沖縄県における石積の城壁が崩壊例【図-12】沖縄県における石積の城壁が崩壊例

【図-13】(a)EW成分の場合

【図-13】(b)NS成分の場合

【図-13】沖縄本島沖地震で崩壊した城壁についての地震時の応答解析結果

「地盤災害について」TOPに戻る