津波災害について

琉球諸島における津波とその被害

琉球諸島における津波とその被害

琉球諸島における津波としては、1771年に発生したマグニチュード7.4の明和地震とその津波以外、過去の津波についてほとんど情報がない。しかし、沖縄本島、石垣島、宮古島および下地島に津波石と呼ばれている巨大な石が存在している【図-1】。特に下地島の津波石は世界最大級と思われる。これらの津波石の一部は明和地震と関連があるとされている。 また、沖縄本島のカサカンジャにある巨大石は高波で陸に打ち上げられたと解釈する地質学者もいた。後藤ら(2010)や荒岡(2013)などは石垣島の大浜にある津波石などに付着しているサンゴの年代測定などから、2000年以上前に発生した巨大津波で陸に打ち上げられたことを明らかにした。 近年 Aydan & Tokashiki(2018)が沖縄本島、石垣島、宮古島および下地島にある津波石の海岸からの位置関係、海面からの高さとその寸法などを考慮して、これらの津波石を陸に運んだ津波の地震のマグニチュードを求めた。その結果を【表-1】に示す。この推定結果から琉球諸島周辺でモーメント・マグニチュードが9を超える巨大地震が発生していた可能性があることが示された。

【図-1】琉球諸島の主な島における陸上の津波石【図-1】琉球諸島の主な島における陸上の津波石

【表-1】津波石を陸上に運んだ地震の推定マグニチュード
位置 Mw(下限値) Mw(上限値)
宮古島-東平安名崎 9.5 9.7
下地島 9.0 9.5
沖縄島-カサカンジャ 9.0 9.2
石垣島-大浜 8.6 9.1

琉球諸島における過去の地震

1771年明和地震とその津波
今から246年前の、1771年4月24日(明和8年旧暦の3月10日)の午前8時ごろに発生した八重山沖の地震では、石垣島の宮良村で遡上高が28丈2尺(85メートル)に達するともいわれる津波が押し寄せ、八重山で9300人、宮古諸島で2500人以上が死亡している。 この85メートルという数字は、これよりも標高が低い井戸は被害を受けなかったなど、過大という説もあるが、マグニチュード7.4、石垣島の震度は4程度と推定され、地震そのものでは被害が出ていない。 1960年のチリ地震の津波で沖縄本島の屋我地大橋が津波で崩壊したことが報告されている【写真-1】。また、チリ地震津波による死者は3名であった。

【写真-1】チリ地震津波によって崩壊した屋我地大橋の様子(沖縄県)【写真-1】チリ地震津波によって崩壊した屋我地大橋の様子(沖縄県)

琉球諸島における近年の地震(2010年2月27日)
2010年に発生した地震は横ずれ断層によるものであった。一般的に津波の発生は考えられないが、南城市で記録された海岸線での津波高さは10㎝であった。
【表-2】2010年に発生した地震の概要と津波警報等の発表状況(気象庁)
発生日時 2月27日05時31分頃
マグニチュード 6.9(速報値)
場所および深さ 沖縄本島近海(那覇の東、約50km付近)、深さ約10km(速報値)
発震機構等 北東-南西方向に圧力軸を持つ横ずれ断層型(速報値)
震度 【最大震度5弱】沖縄県糸満市(イトマンシ)で震度5弱を観測したほか、九州地方から沖縄県にかけて震度4~1を観測しました。
津波警報(津波) 27日05時33分に発表した津波警報は、06時30分に津波注意報に切り替えました。

南西諸島近海で発生した地震による津波の影響範囲と津波伝播に及ぼす海底地形の特徴

筒井 *1)は、南西諸島近海で過去に発生した地震の震央分布と津波の影響範囲を示すとともに、津波の伝播に及ぼす海底地形の特性について報告している。 【図-2】に、南西諸島近海における地震の震央分布と地震津波の影響範囲を示す。地震は、太平洋側の琉球海溝と東シナ海側の海盆に挟まれた琉球島弧沿い水深約200m~2000mの海底下で発生しており、津波の発生した地震は7つである。津波の規模は比較的小さい。 しかし、1771年に石垣島南方で発生した明和の八重山大津波は、石垣島および宮古島に甚大な被害をもたらした。図に示すように、南西諸島近海では100~150年間隔で地震津波が発生している。 島棚上での津波伝播は、海底地形とその平面形状の影響が大きいとされている。Longuest-Higgins *2)は、同心円状の等高線からなる海底地形において長波がトラップされる条件として、水深が沖方向に自乗以上の割合で深くなることを示している。

【図-2】南西諸島近海で過去に発生した地震の震央分布と地震津波の影響範囲【図-2】南西諸島近海で過去に発生した地震の震央分布と地震津波の影響範囲 (横線は津波の影響範囲、数値は発生年、◎は津波を伴った地震、破線は地震記録は不詳であるが津波記録が存在するものを示す)

【図-3】宮古島近海の海底地形【図-3】宮古島近海の海底地形

【図-4】石垣島近海の海底地形【図-4】石垣島近海の海底地形

【図-3】および【図-4】に、宮古島および石垣島における海底地形の性状を示す。図は両対数グラフで横軸に島の中心からの距離r、縦軸に水深hをとり、水深変化の割合を示している。宮古島、石垣島両島の水深変化の割合は勾配2の直線より急であり、これらの島近海における長波のトラップの可能性を示している。 一方、円弧上の陸棚が比較的発達し、シル・モデル *3)が適用できる事例として、粟国島近海の南東側の海底地形に対する長波のトラップモードについて示す。【図-5】は粟国島の海底地形を示しており、幅約4Kmのシル(浅瀬)が発達している。図中、破線で示す海底地形を仮定し、シル・モデルによるトラップ条件を求めると、トラップされる長波の周期は1~数分である。

【図-5】粟国島近海の海底地形【図-5】粟国島近海の海底地形

しかしながら、同島に限らず島の周辺全体にこのようなシルが形成されることは希であり、シル・モデルによる完全なトラップ現象が生じる可能性は低いと考えられる

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