地震災害について]
琉球諸島のテクトニクス、地震活動および地震発生機構について
琉球諸島の地質とテクトニクス
琉球列島は、北は種子島から南は与那国島に至る約1100kmの広がりをもつ弧上列島である。
この琉球列島は、北西側に沖縄トラフがあり、南東側には琉球海溝が位置している(木崎,1986)。木崎(1985)による琉球列島周辺の構造配置を【図-1】に示す。さらに、琉球諸島の南東側には、フィリピン海プレートの潜り込みが存在し、一方、その沈み込みによって大陸側には沖縄トラフと呼ばれる谷状の海底地形が存在しており、周辺で断層運動も確認されている。
基盤層の形成は中生代と考えられ、主としてチャートや片岩より構成されている(木崎,1986)。この基盤層の上に新生代の砂岩、頁岩および石灰岩が重なっている。これらの岩の上に鮮新世島尻層群が覆い、さらに第四紀層と完新世層が堆積している。鮮新世島尻層群は、泥岩、シルト岩、砂岩で構成されている。第四紀層は、更新世琉球石灰岩および完新世、沖積世層と砂丘よりなっている。
【図-1】琉球列島周辺の構造配置(木崎,1985)
地殻変動およびGPS地殻変位観測
地球の自転やマントル対流の影響を受けてプレートの移動を引き起こし、地殻内にひずみが生じる。【図-2】は日本のGEONETと呼ばれるGPS観測網から得られた琉球諸島周辺の地殻の変位ベクトルを示す。【図-2】よりわかるようにフィリピン海プレートはWNW方向に琉球諸島の下に沈み込んでいる。Aydan(2000)が提案した手法によりGPS観測によって得られた地殻変位から、地殻岩盤のひずみ速度および応力速度の算定をすることが可能である。
【図-2】琉球諸島周辺におけるGPSによる変位ベクトル
地震活動
【図-3】は琉球諸島周辺の100年間の地震活動を示す。また、沖縄本島を中心にして、琉球海峡に直行なA-A’断面における地震活動を【図-4】に示す。図からわかるように、フィリピン海プレートはWNW方向に琉球諸島の下に30-35°の傾斜を持って沈み込んでおり、深さ250㎞まで地震活動が発生していることが見受けられる。この100年期間中にマグニチュード7以上の地震が5回発生している。
一般的に琉球諸島周辺では地震が少ないといった間違った考え方があるが、この地震活動から決して地震が少ないとはいえない。
2010年2月27日に沖縄本島近海でマグニチュード7.2(Mw6.9)の地震が発生し、その断層運動は横ずれ断層によるものである(Tokashiki and Aydan, 2010b)。この地震によって勝蓮城址と玉城址で被害が発生した。
【表-1】は1771年-2010年の間の主な地震被害を示している。この表からわかるように日本の他の地域に比べて、琉球諸島周辺における過去の地震に対する認識が不足している。この期間中に1771に発生した明和地震によって津波高さは50m達し、12000人の命が失われたと報告されている。
【図-3】琉球諸島周辺の100年間の地震活動
【図-4】図-3の断面A-A’における地震活動の射影
【表-1】琉球諸島における過去の地震(沖縄気象台より)
西暦(和暦) | 地域(名称) | M | 主な被害(括弧は全国での被害) |
---|---|---|---|
1771年4月24日 (明和8) |
(八重山地震津波) | 7.4 | 八重山列島と宮古列島で被害。溺死者約12,000人、家屋流失2,000棟余。 |
1909年8月29日 (明治42) |
沖縄島近海 | 6.2 | 死者2人、負傷者13人、家屋全半壊106棟。 |
1911年6月15日 (明治44) |
奄美大島近海 | 8.0 | (奄美、沖縄諸島に被害。死者12人、家屋全壊422棟。) |
1947年9月27日 (昭和22) |
与那国島近海 | 7.4 | 石垣島、西表島で被害。死者5人。 |
1958年3月11日 (昭和33) |
石垣島近海 | 7.2 | 死者2人、負傷者4人。 |
1960年5月23日 (昭和35) |
(チリ地震津波) | 9.5 | 死者3人、負傷者2人、建物全壊28棟。 |
1966年3月13日 (昭和41) |
台湾東方沖 | 7.8 | 与那国島で被害。死者2人、家屋全壊1棟。 |
2010年2月27日 (平成22) |
沖縄本島近海 | 7.2 | 負傷者2人。 |
地震発生機構
Kubo & Fukuyama(2003)が1977-2001の期間中に発生した琉球諸島周辺における地震の発生機構を整理したものを【図-5】に示す。この図からわかるように琉球海溝の東側に発生する地震の大半は主に正断層運動によって発生していることがわかる。
また、沖縄トラフにおいても発生する地震の大半は主に正断層運動によって発生している。沖縄トラフと琉球海溝に存在する琉球弧において、弧軸に断層の走行が直角な地震が発生している。また、左横ずれあるいは右横ずれの地震も発生している。
【図-5】琉球諸島周辺の地震の発生機構(Kubo & Fukuyama(2003)より)
琉球諸島における応力状態
Aydan & Tokashiki(2003)、Watanabe et al(2006)および藍檀ら(2018)は琉球諸島における岩盤の応力の大きさと方向を、AE法(Stress measurement method)、断層条線法(Striation method)および地震発生機構による方法(Focal mechanism method)を用いて推定している。
最大水平応力の方向と大きさを、無次元化して比較した結果を【図-6】に示す。 図から明らかなように、各手法から求めた主軸の方向に類似性が認められる。沖縄本島北部において推定した各手法による最大水平応力の方向は、ほぼNW方向を示している。
また、沖縄本島をはじめ、宮古島、石垣島周辺の最大水平応力の方向がほぼNW方向を示しており、琉球列島の北側に位置する沖縄トラフにほぼ直行していることがわかる。
【図-6】琉球諸島の地殻岩盤における最大水平応力の方向と大きさの比較
琉球諸島における地震のリスク
前節でも述べたように「琉球諸島周辺に地震が少ない」といった間違った考え方がある。熊本県においても2016年の地震の前に同様な考え方があった。その結果、熊本県は耐震設計の考え方を変更することになった。したがって、沖縄県についても地震リスクについて正しい評価が求められる。
ここでAydan(1997, 2001, 2007)がトルコの内陸地震を対象とした地震のモーメント・マグニチュードと地震断層の間の経験式を提案した。Aydan(2012, 2015b)は近年これらの式を世界の他の地域にも適用し、一般化している。これらの式を用いて琉球海溝にそって発生する地震のマグニチュードの推定を行った。Aydan(2015a)は琉球海溝をセグメントに分けて、各セグメントにおけるプレート境界型地震のマグニチュードを推定し、その結果を【図-7】に示す。
また、GPSから得られている平均変位速度と各セグメントにおける地震の相対変位量を用いて周期性も求めている。
海底地形を考慮して海溝を5つのセグメントに分けた。それらのセグメントは与那国(YS)、西表-石垣-宮古(IIMS)、宮古陥没(MDS)、沖縄(OS)および奄美-大島(AOS)セグメントである。最も長いセグメントは西表-石垣-宮古(IIMS)、宮古陥没(MDS)セグメントであり、その長さは316㎞である。
IIMSについて推定されたモーメント・マグニチュードは8.5である。しかし、琉球海溝(RSZ)は2004年スマトラ沖地震のように破壊した場合、そのモーメント・マグニチュードは9.5である。また、その周期は1300年である。
【図-7】琉球海溝のセグメントと推定モーメントマグニチュード、相対ずれ量および周期性(Aydan 2015bより:地図はGoogle-Earthより)