地震災害について
地震の基礎知識
地震とは
【図-1】が示す地球を構成している地殻の一部が破壊やすべりなどに伴って急激な運動が発生し、その結果、地震波が発生して地球内部に伝わる現象である。一般的に地震時に震動と別に地殻は永久変形する。
【図-1】地球の内部構造(気象庁より)
地震はなぜ繰り返し発生するのだろうか?
Brace and Byerlee(1966)は、スティック・スリップ現象が地震の繰り返し発生のメカニズムであると考え、地震の繰り返し発生するメカニズムを説明するために、室内試験を行っている。【図-2】はShimazaki & Nakata (1980)による地震の繰り返し発生のモデルを示す。
スティック・スリップ現象は【図-2】(a)のように規則的な運動で地震が発生する場合と、【図-2】(b)、(c)のように不規則な運動で地震が発生する場合がある。例えば、東海地震・東南海地震・南海地震は100年周期で発生する海溝型地震であることが知られている。
【図-3】に東海地震の発生履歴を示す。東海地震は1854年安政東海地震以降、約150年間発生しておらず、100年周期といっても誤差が生まれる。これは、海洋プレートの沈降速度、海洋プレートと大陸プレートとの摩擦・剛性、断層の面積などによって地震の再来周期が異なるためである。
もし、これらの条件が常時一定であるならば【図-2】(a)のような規則的な応答を示すであろう。
【図-2】地震の繰り返し発生機構に利用されている概念図(Shimazaki & Nakata (1980))
【図-3】東海地震の繰り返し発生周期(太田,2010)
地震の発生機構
地震は地殻を構成する岩盤の相対「ずれ」によって発生する現象である。地震を起こす断層によってその発生機構が異なる。理想的に地震断層は3つに区別される【図-4】。
1)正断層
2)逆断層
3)横ずれ断層(右横ずれ、左横ずれ)
正断層の場合、断層の相対ずれ変位の鉛直成分は重力の方向と同様であり、逆断層の場合はその成分は重力方向の逆になる。横ずれ断層の場合は運動が重力方向に関して直行する。地震断層を動かす応力場に対してAnderson(1950)はMohr-Coulomb破壊基準を用いて説明しているがその中間応力の状況は不確定である。
正断層の場合、地学の分野で最小主応力は引っ張りの性質を有することがあると仮定されることが多いが、岩盤力学の分野では正断層による地震が多い地域でも最小主応力は圧縮の性質であることが計測的に確認されている。しかし、正断層の場合、最小主ひずみは伸長ひずみであることが確実である。長い断層ほど大地震を起こし、その周期も大きくなる。
【図-4】地震を起こす断層の種類(国土地理院の図面に加筆)
【図-5】各種断層の写真
地震波とは
地震波は、地震によって開放されるエネルギー地殻内で伝達する波である。その波は大きくP波、S波および表面波に分離される。P波は観測点に一番先に到達する波で、その後S波が到達する。表面波は地殻の表面で観測されるもので、深度が増加するとその振幅がかなり小さくなる。
【図-5-2】は1939年にトルコの東部で発生したM8.0のErzincan地震のアメリカのハーバード大学で収録された記録である。地震の震源が遠い場合には、P波、S波および表面波は明確に観察されるが、震源が近い場合、S波および表面波を区別するのは困難である。P波は体積ひずみに、S波は角度変化に関連したせん断ひずみに関連する。一般的に構造物に被害を与える地震波はS波および表面波である。
【図-5-2】1939年にトルコの東部で発生したM8.0のErzincan地震のアメリカのハーバード大学で収録された記録
地震の発生時刻と震源の決定方針
地震発生時刻を決定するため、大森(1899)が提案した手法が使用されている。この手法では、震源周辺の各観測点におけるS波とP波の時間差が用いられている。基本的に2つの観測点のS波とP波の時間差があれば地震の発生時刻をもとめることができる。しかし、観測点の数が多いため、地震の発生時刻は最小二乗法を用いて決定される【図-6】。
震源を求める方法も、大森(1899)が提案した考え方に基づいている。この手法は最低3つの観測点で計測されるS波とP波の時間差を用いて、震源の位置と深さが【図-7】のようにマニュアル的に決定することができる。しかし、一般的に観測点の数が多いため、最小二乗法を用いて震源の位置と深さが決定される。
【図-6】地震発生時刻の求め方の原理
【図-7】震源の求め方の原理
地震の大きさの求め方
地震の大きさを表すものとして、Gutenberg-Richterがマグニチュードの概念を提案するまで震度階級が利用されてきた。
1873年にRossi-Forelは震度階級を提案している。その震度階級は10階級に分類されていた。Rossi-Forel震度階級を発展したものとして、1902に13階級からなるメルカリ震度階級が提案された。その後、12階級からなる修正メルカリ震度階級(Modified Mercalli intensity scale、MMI scale)に修正されている。世界的にこの震度階級が広く利用されている。日本では気象庁から提案されている震度階級が利用されている。
1995年の阪神大震災後の1996年に修正され、震度階級は10階級となった。1873年に提案されたRos-Forel震度階級と大変類似してきている【図-8】。
【図-8】気象庁の震度階級とその漫画
震度階級はある位置で経験した地震の揺れなどを表す評価法であり、地震の大きさを表すパラメータになりえない。また、震度階級は地盤状況、地形などに大きく影響される。Richter(1935)は地震の大きさを求めるためマグニチュードの概念を提案した。
地震学の分野でRichterのマグニチュードがロカールマグニチュードとして知られている。このマグニチュードは震源から100㎞離れた地震計で収録された変位波形の振幅および周期から決定される【図-9】。その後、表面波、実体波などを用いた、マグニチュードの決定法が提案されているが、基本的な手順は同様である。
しかし、各種のマグニチュードの間に若干差が生じているため、Kanemori(1977)は地震時の破壊面の大きさ、解放されるエネルギーの大きさに比例するモーメント・マグニチュードを提案し、その後モーメント・マグニチュードが地震の大きさを評価できるスケールとして利用されている【図-10】。地震学で利用される地震計は振り子の運動として地表面の変位波形を利用している。
【図-9】Richterのマグニチュードの決定法
【図-10】モーメント・マグニチュードの概念と決定法
地震の発生機構の推定
【図-4】に示した地震を発生させる断層運動を地震波から推定することは地震発生機構推定法として知られている。この手法の原理は中村(1924)によって提案されている。一般的にシングルカプルモデルとダブルカプルモデルの概念が提案されている【図-11】。【図-12】はダブルカプルモデルに基づく震源周辺に推定されるP波とS波の振幅の様子を示す。【図-13】は1931年に発生した右横ずれ西埼玉地震の発生機構を一例として示す。【図-14】は各種断層運動の地震発生機構を示す。
【図-11】シングルカプルモデルとダブルカプルモデルの概念
【図-12】ダブルカプルモデルに基づく震源周辺に推定されるP波とS波の振幅の様子
【図-13】1931年に発生した右横ずれ西埼玉地震の発生機構
【図-14】各種断層運動の地震発生機構